個人事業主と法人、税金はどっちがお得?

基本的な相違点

まず、個人事業主と会社の社長では、税金を課税される形態が異なります。

個人事業主は、売上高から必要経費を差し引いたもの、つまり利益がそのまま自分の所得となり、これを「事業所得」といい、これに対して「所得税」という税金がかかります。

個人事業主の場合、その事業所得こそが、事業主の収入となるわけですから、その中から生活費を支払って暮らしていくことになりますが、当然のことながら、生活費は必要経費とはなりませんので、結局、その「事業所得」全部に「所得税」がかかることになります。

一方、会社を作ると、会社の利益に対して「法人税」という税金がかかります。会社の利益も、売上高から経費を差し引いて計算されますので、「事業所得」の計算とほとんど変わりはありません。

ところが、会社を作った場合、経営者は社長に就任するわけですが、社長にも、一般の従業員と同様に給料を払うことになります。この社長に対する給料のことを「役員報酬」といい、法人で経費とすることができますが、一方で社長にとっては、サラリーマンと同様に「給与所得」となり、この「給与所得」に対して「所得税」がかかることとなります。

要するに、会社を作った場合には、売上高から必要経費を差し引いた儲けの中から、役員報酬を支払い、残った部分だけに「法人税」がかかり、支払われた役員報酬には「所得税」がかかるということになるのです。

基本的な相違点

図をご覧いただくとわかりやすいと思いますが、個人事業主であろうと、法人であろうと課税される所得金額に変わりはありませんので、一見するとプラスマイナスゼロに思われるかもしれませんが、実際はそうではありません。

法人で事業を行う場合、その所得が、法人所得と個人所得とに区分され、それぞれ法人税と所得税という異なる税金が別々にかけられるというところがポイントとなってきます。

所得税と法人税は税率が違う!

まず最初に、皆さんに知っておいていただきたいのが、所得税と法人税では税率が違うということです。

こちらが所得税の速算表です。

所得税と法人税は税率が違う!

注目していただきたいのは、所得税では、所得額が大きくなるにつれて、税率も高くなっているということです。このような税率を「累進税率」と呼びます。

一方、法人税の税率は、一律の23.4%(平成28年4月1日以降開始事業年度)とされ、平成30年4月1日以降開始事業年度については、23.2%にまで引き下げられます。
また、資本金が1億円以下の中小法人については、800万円以下の所得部分については19%という優遇税率が認められ、しかも、平成29年4月1日以降開始事業年度までは、さらにお得な15%という税率となっています。
中小法人を前提とすれば、法人税率は以下の通りです。

所得税と法人税は税率が違う!

これらの二つの表を見比べれば、法人と個人とは、税金面でどちらがお得かわかるでしょう。

単純計算をしてみれば、売上高から必要経費を差し引いた総所得金額が330万円以下の場合には、個人事業の場合の所得税率の方が安く、330万円を超えると法人が有利になってきます。

ところが、実は、それほど単純ではありません。
累進税率というのは、一定の所得金額を超えると、いきなり全体に対する税率が上がってしまうというわけではなく、超えた部分の所得に対してのみ高い税率がかかる仕組みです。

このため、以下の試算の通り、総所得金額が950万円を越えるようにならないと、法人の方が税金が安いということにはなりません。

所得税と法人税は税率が違う!

所得を分散すると…

所得が950万円を超えないと効果が出ないと言うのであれば、ほとんどの個人事業主にとって、まだまだ先の話となってしまうかもしれません。ところが、それにもかかわらず、多くの個人事業主が法人を設立するのは不思議な話です。

実は、先ほどの計算は、現実的にはあり得ないモデル計算に過ぎません。だって、法人でビジネスをしている人が、役員報酬を1円も受け取らないというのでは生活できませんよね。
そして、法人の場合には、総所得を法人所得と役員報酬とに2分割するという話を忘れてはいけません。法人を設立して、この2分割を上手に活用すると、次のような合理的な節税が可能となるのです。

所得を分散すると…

税金の総額が40万円ほど安くなりました。実は、法人と個人に所得を分散することで、低い税率の適用範囲を広げることによって、税金を安くすることができるのです。

ところが、実は、この計算は正しくありません。もうひとつ重要なルールがあるのです。そして、このルールのおかげで、税金を、さらに安くすることができます。

給与所得控除

そのルールとは、「給与所得控除」という仕組みです。これは、給与所得の計算においては、会社からもらう給料すべてに税金がかかるのではなく、給与から一定の額を控除し、その残りにだけ所得税が課税されるという仕組みです。

給与所得控除

この計算でわかる通り、給与所得の場合には、700万円を受け取っていても、わずか510万円にしか課税されないということです。
この給与所得控除という制度は、

「会社から給料をもらうサラリーマンだって、必要経費はかかるよね。だけど、給与所得には、確定申告などで経費を差し引くという計算が認められていないんだよね。だから、サラリーマンの場合は、領収証が無くっても、収入に応じた一定の額を必要経費の分として差し引いて上げましょう。」

という制度です。そして、この給与所得控除こそが、個人事業主よりも会社を作った場合に有利に働く最大の材料になるのです。

何しろ、会社を作った場合、実際に支払った経費、つまり領収証があるものについては、洩れなく会社の経費にしますよね。そうやって会社の利益から差し引くことによって、法人税が安く済みますから。

そして、手許に1枚も領収証が無いという状況から、さらに役員報酬の一定割合を給与所得控除として差し引いて構わないと言うのですから、これは「オイシイ!」ということになります。
具体的には、次のようになります。

給与所得控除

ご覧のように、実際に支払った経費の額は同じでも、税金の額が140万円も減っています。かなり節税できましたね。

小規模の個人事業主が、いつの間にか法人経営に切り替わっているのを良く見かけますが、それらは、このような節税効果を狙っているわけです。

先ほど、所得の総額が950万円ほど無ければ、法人成りは節税効果が無いような説明をしましたが、実際には、この給与所得控除を活用できますので、所得総額がもっと少ない状況でも法人成りの節税効果を手に入れることができます。

ただし、法人の設立手続きで25万円ほどのお金がかかりますし、法人を運営しようと思えば、税理士への支払などを含めて、毎年40万円以上のコストアップが見込まれますので、ひとつの目安として、所得総額が550万円を超えるようであれば、法人成りをお薦めします。

法人は経費の範囲が広い

個人事業主と会社とでは、経費面でも違いがあります。全般的には、会社の方が、経費面での柔軟性に優れていると言えます。

①借上社宅

たとえば、自宅兼事務所として利用しているときの家賃は、個人事業主の場合であれば、床面積などを基準として事業に使われる部分と住居部分とに按分計算して、専ら事業に使われる部分しか経費とすることはできません。
つまり、住居部分は、1円も経費とすることができないわけです。

ところが、法人の場合であれば、賃借契約を法人で行い、役員の借り上げ社宅として取り扱うことによって、住居であったとしても、その家賃のおおむね50%を経費とすることができるようになります。

②生命保険料

また、個人事業主のための生命保険料は、所得税の計算において、最大でも12万円の生命保険料控除しかありません。仮に、1年間で100万円の生命保険料を支払っていたとしても、わずか12万円、保険の種類によっては、たったの4万円しか引いてもらえないということになっています。

ところが、契約者と受取人の両方を法人として生命保険に加入していれば、社長に対する生命保険であったとしても、保険の種類によっては、支払額の全額を経費として扱うことができます。先の例で言えば、たったの4万円と100万円ですから、これは見逃すことのできない差ではないでしょうか。

この生命保険等を利用して、保険料を経費として節税しながら、資金を外部に積み立て、これで将来の退職金を準備するなんていう技ができるのも、法人の場合だけです。

③社長に対する出張手当

さらに、出張があった場合に、個人事業主と法人とでは差が出るケースがあります。

往復の交通費や宿泊代は、当然経費とすることが可能で、これらは個人事業主の場合でも法人の場合でも変わるところはありません。
ところが、法人の場合には、社長さんにも「出張手当」を支給することができるようになります。

この場合、事前に「旅費規定」を作成し、出張手当の金額を明記しておくことによって、会社としては経費扱いになると同時に、その手当てを受け取った社長さんの側も、所得税が課税されない非課税の収入となりますので大変重宝します。もちろん、異常に高額だと論外ですけどね。

④慶弔費

また、慶弔費も同様です。個人事業主の場合、身内の冠婚葬祭費用はプライベートな支出とみなされ、経費として認められないことが多いようです。
しかし、会社を作った後で、「慶弔規定」を整備しておけば、見舞金や弔慰金、出産祝いや結婚祝いなど、慶弔規程に基づく範囲で、プライベートな支出と見られがちなものでさえ、遠慮なく経費扱いにすることができます。

青色繰越欠損金も法人が有利

個人事業主の場合は1月1日から12月31日までの暦年を「会計期間」としていますが、会社の場合は、決算期を自由に決めることができますので、自分の都合のよい時期に決算事務を行うことができます。

そして、この会計期間の間に生じた黒字や赤字の金額を計算し、それにあわせて税金が徴収されるわけですが、個人だろうが会社だろうが、商売は生き物ですから、去年は赤字で、今年は黒字、来年はまた赤字などとなるケースがあります。

そんなときに、たまたま今年が黒字だからといって課税されていたら、過去の赤字分の補填に何年かかるかわかりませんよね。
そこで、「青色申告をしている事業者が赤字となってしまった場合、その赤字を翌年度以降に持ち越して、黒字だった決算期に相殺してあげましょう」という制度があります。それが「青色欠損金の繰越控除」という制度です。

個人事業主の場合、繰越欠損金は3年間持ち越すことができます。つまり、欠損金が発生してしまっても、翌年から3年分の黒字と相殺することができるため、しばらくの間、納税額をゼロとすることもできるわけです。

これは、大変便利な制度ですが、法人の場合には、もっと便利です。なんと会社の場合は、繰越控除ができる期間が9年もあるのです(平成30年4月1日以後に開始する事業年度において生ずる欠損金額の繰越期間は10年。)
このため、法人事業の方が、資本を投下してから回収までのサイクルを、長期的な視野で見られることができるようになるのです。

交際費の上限額

法人と個人事業を比べると、多くのケースで法人が有利ですが、法人にも弱点が無いこともありません。

例えば、「交際費」の支出です。接待にかかる飲食代や、贈答品などで支出する交際費は、個人事業主の場合は無制限に経費として認められますが、法人の場合は、総額に上限が設けられていて、その上限額を越える部分は経費として認めてもらえないということです。

ただし、法人における、この交際費の上限額は、現在のところ、中小法人の場合であれば年間800万円まで(※)となっておりますので、当面の間は十分ですよね。

それでも、個人事業主は全額が経費となるという点は変わっていませんので、多少は、個人事業主の方が有利かもしれません。

もちろん、法人と同様、個人事業主であっても、なんでもかんでも経費になるわけではありません。友人との飲食代や、家族で行った旅行など、事業と関係のないプライベートな支出は、さすがに経費として認められません。
ですから、交際費は、支出した先、接待した相手方、その意図をいつでも説明できるようにしておくことがポイントです。

(※)年間800万円の定額限度額に代えて、飲食交際費の50%までを経費とすることもできます。

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